電解液に蝕まれるレトロPCたち

自宅の呼び鈴が鳴り、玄関の扉を開けると運送屋さんが大きめの箱を持って立っている。
ネットオークションで落札した古いパソコンが届いたのだ。

これは出品者が使い方がわからないので動作未確認、古いのでジャンク扱い、ゆえにNCNR(ノークレームノーリターン)という
もはや定番の鉄壁ガードともいえる条件をつけて出品していたものだ。

オークションを始めたばかりのころ、いくら古いといってもコンセントにさして電源を入れたりとか、
もしビデオ端子がついている機種だったらTVに画面が映るかくらいは確認できるだろうに・・・と思い、
それだけでも試せないかお願いしたところ回答は「わからないので出来ないし、もう梱包してしまったから無理」だった。
それ以降「動作未確認、NCNR」を謳っている出品者に細かなことを質問するのは暗黙のマナー違反と悟り、やめた。
(もちろん出品前に動作確認をした上で、不具合があればしっかりと説明文に明記している出品者もいる)

出品者の言っていることが嘘か真かは不明だが、普通なら怪しさを感じて入札を控えるところだろう。
しかし悲しいかな、めったに見かけないレア機だったり、他に入札者が現れず格安で終了しそうになると
「賭け」で入札してしまう。
そして自分が最高額入札者のまま終了、落札者となったのだ。

箱から落札したパソコンを取出し、モニタに繋ぎ、ワクワクしながら電源を入れる。
・・・が、電源が入らない。あるいは、電源は入るが画面は真っ暗のまま。
そして「賭け」は負けだったと半分ガッカリすると同時に、残り半分でワクワクしながら不良と思われる個所の診断をする。
そんな話はよくある事なのだ。


メンテを終えたPC-98DOのメイン基板と電源ユニット。
但しこちらはネットオークションではなくハードオフで購入したもの。
レトロPCの内部には約30年分のホコリや漏れた電解液、そして時として虫の死骸が潜んでいる。


もちろん、20〜30年前のコンピューターなので、製造されてから今日に至るまでの間、何もメンテナンスされていなければ
不具合の1つや2つあって当然なのだが、たまに自分のところに来るまでノーメンテで生き延びた「長寿」の個体に
巡り合うこともあるから面白い。

何がレトロPCを蝕むのだろうか?
原因は色々あるが、落として壊したとか、水をかけてしまったとか、そういう使用者が原因の場合もあるだろう。
あるいは、外見は何ともないのにメイン基板上の半導体が壊れていたこともあった。
しかし、劣化系の故障で多いのはダントツでこれからお話しする2つだろう。


さてさて、まず1つめはコレ。写真は日立の初期MSX2であるMB-H70のメイン基板。
メイン基板上に載っているバッテリーに液漏れが発生して基板上の回路を腐食している。
私はPC-9801、PC-8801、X68030、初期のMSX2でこのタイプのバッテリーが液漏れしているのを見た。
もう、これは悲惨というか面倒くさい。
下手に触ると脆くなった回路が断線する危険性があるし、周囲にある他の電子部品も影響を受けていることがある。
虫歯と一緒で放置するとどんどん悪化するので、このタイプのバッテリーを使っている機種は
入手後、即バッテリーを除去して基板を洗浄する必要がある。


取り急ぎバッテリーの足を切断して除去してから基板を洗浄した。
回路上に載っている銀色のピンは腐食して断線していた箇所を修復したもの。
目視では断線しているかどうか判断しきれないので液が漏れていた箇所の回路は全てテスターで導通確認した。
回路図はないので目視でパターンを追うが、30代も中盤を過ぎると老眼が始まるので少々しんどい作業。

基板上にはバッテリーの足の残骸が残ったままになっているので、この後除去した。
電解液が浸透したはんだは、コテを当ててもなかなか溶けない。
(洗浄したり、追いはんだをすると少しだけ溶けやすくなる)
なので、ついはんだを長時間押し当てて腐食して脆くなっている周囲の回路に更にダメージを与えてしまう悲劇が起こりやすい。


取り外したバッテリー。
こちらはPC-9801でよく見かけるタイプ。
同じく液漏れ常習犯。

ところで末期のMSX2以降の機種をお使いの皆さん、自分の機種は乾電池だから関係ないと思っていませんか?
いやいや、他人事ではありませんよ。乾電池も古くなると液漏れします。
取り付け位置的にメイン基板を侵食する可能性は低いと思うけど、大切な愛機にダメージを与えないために
一度乾電池ホルダーの中身をチェックすることをお勧めします。


もう1つの元凶がコンデンサ。
友人所有のものも含めてPC-98DO/DO+/GS/X68030の電源ユニット内にあるコンデンサが寿命を迎えて
電源が入らなくなっていた。
いずれもコンデンサから液漏れが発生していた。

X68030にいたってはさらに壮絶で、メイン基板上に多数存在する表面実装タイプのコンデンサが
あちこち液漏れして、その影響でショートして基板が一部焼け焦げ、回路が消失しているありさまだった。
こちらは運良く回路図を入手出来て回路を修復したのだが、焼けてしまったチップの入手ができず、修理が難航している。

私のコレクション対象は主にMSXなので他の機種に触れたのはごく稀だが、PC-9801を入手した時に限っては
前所有者が動作確認済みであろうがそうでなかろうが、到着後無条件に電源ユニットを分解してコンデンサを交換した。
電源ユニット(の中の電解コンデンサ)に脆弱性があると言ってもいい1990年前後のPC-9801、しかも素性の知れない個体を
いきなりコンセントに繋ぎ、さらにそれを起動するのはちと怖いと思ったからである。
PC-9801は友人から依頼されたものとあわせて4台メンテを行ったが、4台全て電源ユニット内のコンデンサが
派手に液漏れしていた。今のところ不良率100%である。

寿命を迎えるとともに周囲を道連れに…

バッテリーもコンデンサもそれぞれ電源の供給や安定化という役目を担って搭載され、
機器の動作に必要なものとして働いていたものだが、寿命を迎えると途端に機器を蝕む存在に変貌する。
自身が寿命を迎えて機能しなくなるだけであればまだいいのだが、死に際に有害な電解液を周囲に浸透させるので、
回路や他の電子部品を巻き添えにするのだ。
まさに道連れ、厄介な存在である。

いったいどれだけの貴重なレトロPCがこれにより修復困難なダメージを受け、廃棄されていったのだろうと、
いたたまれない気持ちになることがある。

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